ストリーミング時代にどう見つける?知られざる海外音楽シーンの探求術
ストリーミングサービスは、私たちが世界の音楽にアクセスする方法を劇的に変えました。スマートフォンのタップ一つで、数千万曲もの楽曲に触れることができる。これはほんの10年、20年前には考えられなかったことです。しかし、この無限とも思える選択肢の中で、本当に「自分の耳で」新しい音楽を発見し、趣味嗜好を広げるためには、少し工夫が必要かもしれません。
特に、レコメンドアルゴリズムに頼りすぎると、どうしても自分の過去の視聴履歴や、多くの人が聴いているトレンドに偏りが生じがちです。もちろん、それはそれで便利な機能ですが、「まだ誰も知らないような、素晴らしい音楽」や「特定の国や地域のローカルシーンで愛されている音楽」といった、アルゴリズムのフィルターから漏れてしまう可能性のある音楽を見つけるには、もう少し能動的なアプローチが求められます。
本記事では、ストリーミングサービスを使いこなしつつ、さらにその先へと視野を広げ、知られざる海外の音楽シーンを探求するための具体的な方法やチャネルをご紹介します。
なぜ、あえて「海外の知られざる音楽」を探求するのか
ストリーミングによって、私たちは地理的な制約を超えて世界の音楽に触れることができるようになりました。しかし、アルゴリズムはしばしば、言語や文化の壁を越えた音楽を積極的にレコメンドするわけではありません。多くの場合、同じ言語圏や、国際的にメジャーなアーティストが中心となります。
ここで海外の、特にインディーズやローカルな音楽シーンに目を向けることには、以下のような大きな意義があります。
- 音楽的な視野の拡大: 普段聴かないリズム、メロディ、サウンド、楽器に触れることで、あなたの音楽の引き出しは格段に広がります。
- 「フィルターバブル」からの脱却: アルゴリズムによる「おすすめ」の泡の中から抜け出し、より多様な音に触れる機会を得られます。
- 新しい才能の発見: まだメジャーになっていない、次にブレイクするかもしれないアーティストを早期に発見できるかもしれません。
- 特定の文化や地域への理解: 音楽はその土地の文化や社会情勢を映し出す鏡です。音楽を通じて、その国や地域への理解を深めることができます。
ストリーミングサービスを「起点」とする海外音楽探求術
ストリーミングサービスは、海外音楽探求の優れた「起点」となります。以下の機能を活用してみましょう。
- 「関連アーティスト」や「ファンがよく聴くアーティスト」機能の活用: 好きな海外アーティストが見つかったら、そのアーティストページにある関連情報を見てみましょう。アルゴリズムによるレコメンドではありますが、ここから思わぬ横のつながりを発見できることがあります。
- プレイリストのソースを辿る: ストリーミングサービスや外部サイトにある、特定の国や地域、ジャンルに特化したプレイリストを聴いてみる。そして、そのプレイリストを作成したユーザーやキュレーターの情報、あるいはプレイリストに含まれるアーティストの情報を深掘りしていくことで、さらに新しいアーティストに辿り着くことができます。Spotifyの「Discover Weekly」やApple Musicの「New Music Daily」なども、起点としては有効です。
- 特定の国・地域のチャートルールや地域特化プレイリスト: 各国のチャートや、ストリーミングサービスが提供する「〇〇(国名)のトップソング」のような地域特化型のプレイリストを定期的にチェックするのも有効です。メジャーな曲が多いかもしれませんが、その中から気になるアーティストを見つけ、関連アーティストを辿ることでローカルなシーンに繋がる場合があります。
- 歌詞の言語やアーティストの所在地を手がかりに: 歌詞の言語が新鮮に感じたり、アーティスト情報で意外な国や地域に拠点を置いていることを知ったりすることも、新たな探求のきっかけになります。
アルゴリズムの外にある海外音楽発見チャネル
ストリーミングサービス内だけではリーチしにくい音楽を探すために、外部の多様なチャネルを積極的に活用しましょう。
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海外音楽専門のキュレーションメディアやブログ:
- Bandcamp Daily: 独立系アーティストやレーベルの音源販売プラットフォーム「Bandcamp」が運営するブログ。世界中の様々なジャンルのインディーズ音楽に関する深く掘り下げられた記事が豊富です。特定の国のシーンに焦点を当てた特集なども組まれます。
- The Quietus (UK): イギリスを拠点とするオンライン音楽メディア。メインストリームからアヴァンギャルド、世界各国のローカルシーンまで、非常に幅広い音楽を扱っており、独特の視点での記事が多いのが特徴です。
- 特定の国やジャンルに特化したブログ: 探求したい国やジャンルが決まっているなら、「[国名] music blog」や「[ジャンル名] blog [国名]」といったキーワードで検索してみましょう。ローカルな情報源が見つかる可能性があります。
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音楽レビューサイトやコミュニティ:
- Rate Your Music (RYM): ユーザーがアルバムなどを評価・レビューするデータベースサイト。膨大なデータとユーザーコミュニティによって、特定のジャンルや年代、国などでフィルタリングし、評価の高い隠れた名盤を探すのに非常に役立ちます。音楽の系譜を辿る機能もあります。
- Discogs: 主にレコードやCDなどの物理メディアのデータベースですが、アーティスト、レーベル、リリースの情報が網羅されており、音楽のルーツや関連情報を調べる強力なツールとなります。マーケットプレイスとしても機能しています。
- Redditのサブレディット: Redditには特定のジャンルやアーティスト、あるいは特定の国の音楽に特化したコミュニティ(サブレディット)が多数存在します。リアルタイムで情報交換が行われており、ローカルな視点からの推薦曲やアーティスト情報が得られることがあります。例: r/indieheads, r/worldmusic, r/[国名]music など。
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独立系レーベルやディストリビューターのサイト:
- 特定のジャンルや地域に特化した独立系レーベルのウェブサイトや、インディーズ音楽を扱うディストリビューターのオンラインストア(Bandcampも含む)をチェックすることで、そのレーベルがプッシュしているアーティストや、関連性の高いアーティスト群を知ることができます。
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海外の音楽イベントやフェスティバル情報:
- 海外の主要な音楽フェスティバル(例: Primavera Sound, Sónar, Roskilde Festivalなど)のラインナップを見ることも、新しい海外アーティストを発見する有効な手段です。ストリーミングで聴けるアーティストも多く、気になったらすぐに試聴できます。
深掘りの具体的なステップ:点と点を繋ぐ
気になる海外アーティストが見つかったら、そこで終わりではなく、さらに深掘りして点と点を繋げていくことで、そのアーティストが属するシーンや、その音楽が生まれた背景が見えてきます。
- アーティストのルーツを探る: そのアーティストが影響を受けた音楽家、同じ時期に活動していた他のアーティスト、所属していたレーベル、活動拠点などを調べましょう。Wikipedia(特に英語版は情報が詳細なことが多いです)や専門サイト、ファンサイトなどが役立ちます。
- 関連アーティストを芋づる式に: 見つけたルーツや関連アーティストをさらに調べ、次々と興味の対象を広げていきます。音楽の「系譜図」を頭の中で作っていくイメージです。
- 物理メディアの情報も参照: Discogsなどでそのアーティストのリリース情報を確認し、どのレーベルから出しているか、共同制作者は誰かなども見てみましょう。特定のレーベルが、後のあなたの音楽探求のキーワードになることもあります。
- 可能であれば現地の情報を: 探求している音楽の国や地域の音楽雑誌、ラジオ局のプレイリスト、ライブ情報なども、インターネットで探せる範囲で調べてみると、よりローカルで鮮度の高い情報に触れることができます。
デジタルライブラリと海外音楽:聴くだけにしないために
ストリーミングサービスは手軽ですが、「聴きっぱなし」になりがちです。見つけた素晴らしい海外音楽を、より自身の音楽体験に定着させるためには、少し意識を変えてみましょう。
- プレイリストで体系化: 見つけた海外アーティストや曲を、特定のジャンル、国、ムードなどで分類してプレイリストにまとめましょう。これはあなただけの「海外音楽ライブラリ」となります。後で見返すことで、自身の発見の軌跡を辿ることもできます。
- Bandcampなどで直接購入: Bandcampなどのプラットフォームで音源を直接購入することは、アーティストを支援することに繋がり、より深くその音楽に関わる行為です。デジタルファイルだけでなく、物理メディア(レコードやカセットなど)を購入するのも、形として残るライブラリになります。
- 情報も一緒にストック: 気になったアーティストや曲について調べた情報(影響源、所属レーベル、関連アーティストなど)を、メモアプリや音楽管理ツールなどに一緒に記録しておくと、後々の深掘りに役立ちます。
終わりに
ストリーミングサービスは、私たちの音楽へのアクセス方法を根本から変えました。しかし、その便利さの裏で、画一化や発見の機会損失といった側面も指摘されています。
本記事でご紹介したように、ストリーミングサービスを賢く活用しつつ、その外にある多様な情報源やコミュニティに目を向けることで、アルゴリズムだけでは決して辿り着けないような、素晴らしい海外の音楽と出会うことができるでしょう。
それは単に新しい曲を見つけるだけでなく、自身の音楽的な世界を広げ、異なる文化や背景に触れる貴重な経験となります。ぜひ、自分だけの「海外音楽探求の旅」に出かけてみてください。